仙台高等裁判所 昭和29年(う)549号 判決
原判決挙示の証拠によれば、原判示第二の刀七振(証第一号乃至第七号)不法所持のうち、証第一号乃至第四号の四振の刀は被告人が昭和二十八年五月頃から同年十月下旬頃迄の間に買求めたものを同年十二月初旬の本件発覚当時未だ登録申請の手続をしていなかつたものであるから、所論のように届出準備中のもので銃砲刀剣類等所持取締令に違反する意思がなかつたものとはいえないこと勿論であるが、証第五号乃至第七号の三振の刀は研師たる被告人が客から預つたものである。ところで、刀剣の研磨を業とする者が客から研磨を依頼され、その刀剣を研磨に必要と認められる相当期間所持することは、刑法第三十五条の正当の業務に因り為した行為として乃至は銃砲刀剣類等所持取締令第二条第七号の趣旨からして、違法性がないものといえる。しかし、本件の場合は、原判決挙示の証拠によれば、被告人は客から刀剣の研磨だけを頼まれたのではなく、同時に客の代人として文化財保護委員会にその登録申請をすることを依頼されてこれをすることを業としていたものであり、かかる場合には銃砲刀剣類等所持取締令の立法趣旨に鑑み研磨とは別に登録申請することを法が要求しているものというべき、仮令事実上は錆びた刀剣を登録申請した場合鑑査の必要上研磨することを求められることがあるとしても、それは右法の建前を動かすものではない。しかも、原判決挙示の証拠によれば、右三振の刀を客から依頼されたのは何れも昭和二十八年夏であるのに同年十二月初旬に未だ登録申請の手続をしていないのであるから、到底登録申請に必要な相当期間と認めるを得ない。されば、被告人の所為は銃砲刀剣類等所持取締令第二条に違反するものといわねばならない。次に、記録を精査し、被告人の経歴、前科特に歯科医師法違反の前科関係、本件各犯行の動機、態様、その他諸般の情状を検討考量するに、所論の事情を参酌しても、原判決が被告人に臨むに罰金八千円を以てしたのを目して、重きに失し不当であるとは認められない。論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)